倉重篤郎のニュース最前線 自民「稀少な良識」岩屋毅・前外相が明言 自衛隊派遣は法的にできない
イラン戦争には国際法上、疑義がある
やはりと言うべきか、日米首脳会談で高市早苗首相は、道理を欠いたイラン戦争をめぐる忠言は一つも発せず、従米姿勢のみを示した。多国間外交が要求されるいま、政府の舵取りは国民をどこへ向かわせるのか? 自民良識派の岩屋毅前外相が、戦争回避のために緊急提言。(倉重篤郎/サンデー毎日4月5日号掲載)
日本はミドルパワー連携でトランプを説得、停戦実現を
違和感が尾を引いた。日米首脳会談である。
トランプ米大統領に抱きつき、巨額対米投資の貢ぎ物を捧(ささ)げ、イラン戦争については日本の「法の枠内」の協力を約束し、「世界に平和と繁栄をもたらせるのはドナルドだけ」と持ち上げた高市早苗首相の「お追従米」路線には、戦争の法的評価も明確な停戦メッセージもなかった。だが、政府与党内では、無理難題を押し付けられずに済んだという安堵(あんど)感が広がっている。高市氏がしたたかによく乗り切ったとの評価さえある。高市1強の下、異論、正論が封じ込まれる傾向だ。
ただ、巨大与党の横並び論議は厳禁だ。というより危険である。古い話をする。かつて後藤田正晴氏(元官房長官)が、日本人は民族的に一方向に一斉に走り出す習性があるので注意が必要だ、と指摘したことがあった。時は1980年代後半のバブル経済真っ盛りの時であった。銀行が土地を担保にした融資を横並びで競い合い、株も不動産も未来永劫(えいごう)に右肩上がりであると皆が思い込んでいた1億総財テク時代だ。銀座の猫の額ほどの土地がサラリーマンの生涯給与以上の値で取引され、それをおかしいと感じた後藤田氏が銀行の土地融資に規制をかけようとした際の述懐であった。
山高ければ谷深し。あの時の行き過ぎた資産インフレが、風船のように膨らんだ金融バブルの崩壊により、結果的に失われた20年とも30年とも言われる長期経済停滞をもたらしたことはご承知の通りである。経済における第二の敗戦とも言われた。後藤田氏が、横並び民族の悲劇のもう一つの実例として、あの戦争を挙げていたことも思い出す。確かに、軍部も政治家もメディアも国民も、異論反論を封じ込んだまま、競い合うようにして同方向に突き進んだ結果、奈落の底に自ら転げ落ちた時代だった。
その意味で言うと、我々日本人は、その性癖を自覚し、国民、民族として大きな岐路を迎えた時には、じっくりと腰を落ち着け、全体が流れていく方向とは別の次元からの観点、議論も十分に尽くしたうえ、次の一歩へと進むべきである。イラン戦争にどう向き合うのか。覇権競争に火花を散らす米中超大国間でどう生き延びていくのか。国家の安寧、国民の生命財産を左右する重要局面だけに、同じような失敗は許されない。
それにしては、衆院での予算審議はひどすぎた。2月27日開始の予算委は、いきなり「3月13日採決」方針が自民から示された。自民選出の予算委員長が委員長職権を16回連発、最短採決を決めた。与野党が積み重ねてきた慣例がすっ飛ばされ、審議時間は59時間と、25年度予算の92時間から大幅に減らされた。異論が精査されず、逆張り議論も深まらなかった。高市1強の傲慢の謗(そし)りを免れない。
そこで、である。あえて自民党内の良識派に意見を求めたい。国会で野党の機能が弱体化した分、与党内野党としての役割をより意識的に果たされよ。政調の各部会でも、総務会でも宜(よろ)しい。党内議論をより活性化、透明化することで、熟議なき突っ走りリスクを低減し、行き過ぎた従米・軍拡ファースト路線と、持続可能性では眉唾物の積極財政政策には適度にブレーキを踏んでほしい。かつて自民党内には非主流派と呼ばれる勢力があり、与党権力の暴走を内側から牽制(けんせい)する役割を果たしたものである。
この稿では岩屋毅前外相に取材した。1990年に衆院初当選、若き日は政治改革に燃え、自民離党歴がある。2度落選も経験。裏金問題ではいち早く麻生派を退会、「石橋湛山議連」の共同代表も務める、わが認定済みの自民良識派の一人である。石破茂政権では外相に就任、防衛相経験者でもあり外交安保に明るい。
イラン戦争、どうみる。
「はっきり言うと米国やイスラエルの攻撃は国際法上大きな疑義がある。日本が一貫して唱えてきた法の支配、力による一方的現状変更は認めないという方針とは、そぐわないものだ。しかしながら、同盟国・米国との関係も維持しなければいけないし、外交だから、すぐさま法的評価をする必要はない。一方で、わが国は先進諸国の中では、唯一と言ってもいいくらい、イランとの友好的な外交関係を維持してきた」
「日本の中東政策はいずれか一方に偏らないという等距離外交を続けてきた。エネルギー源の大半をこの地域に依存しているからだ。そういう長らく続けてきた日本の中東外交から外れていくことも、米国と対立することも避けなければいけない。非常に難しい外交を今、迫られている」
日米首脳が会談した。
「高市早苗首相には、一刻も早く、まず停戦することが米国のためにも同盟国のためにもなり、世界経済のためにもなるということをしっかり伝えてもらいたい」
「トランプ大統領も中間選挙前に国内世論を気にしている。この状況が続けば米国内でも石油価格はじめ物価が上がっていく。もくろんできた経済成果が得られない。米国の政権内にもいろんな議論あると伝えられている。米国にとっても早期の停戦が望ましいという声を同盟国として届けることは、効果がないことではない。皆がそう言うならそうしようかという決め方をさせるというアプローチはあるのではないか」
戦争への法的評価は?
「前外相として断定的に言うのはどうかとは思うが、国際法を逸脱している恐れは高い。ただ、今それを巡って法的評価の議論にエネルギーを注ぐことが適切だとも思わない」
艦船派遣要請には?
「法的根拠のない自衛隊の派遣はできないし、すべきではない。安倍晋三政権の時に作った安保法制の枠組みで言うと、集団的自衛権行使ができる存立危機事態かどうか…
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