877: 2012/09/17(月) 14:03:54.01 ID:sl+ifS88o
投下します
御坂家の日常光景で少々
御坂家の日常光景で少々
878: 2012/09/17(月) 14:04:31.80 ID:sl+ifS88o
「拝啓、残暑の厳しい最中、如何お過ごしでしょうか。この度は日頃の感謝と皆様のご壮健を願って……」
口から言葉にしながら同じペースでキーボードを叩く。
パソコンの画面に映し出された葉書にまったく同じ言葉が記述されていき白が黒に埋め尽くされる。
半分ほども塗りつぶされたところで言葉を閉じ、最後のスペースに簡単なスイカのイラストを置く。
「んと、こんなもんかな。あー、めんどくさいなぁ、もう」
両手を組んで思いっきり頭の上にあげ、ぐいと椅子の背もたれに体重をかけて背伸びをすると大きな二つの果実がシャツの内側で狭苦しそうに引き上げられた。
御坂美鈴。
妻であり母であり主婦であり現役の女子大生である。
特に外見的にはまさに「女子大生」そのものでありとても中学生の娘を持つ経産婦とは思えない。
スラリとした引き締まった無駄のない、それでいながら女らしさを強調したたわわに実った胸と艷やかなヒップから太ももへのライン。
赤みがかった茶色の髪はさらりと短く切り揃えられ首筋を露出させているが、そこには小皺などひとつもない。
ジーンズとポロシャツを纏っただけのシンプルな、若々しい衣装も自然と着こなしている。
十以上も年下の同級生たちと混じっても一見何の違和感も持たれない瑞々しさを維持している。
もっとも、当人に言わせるところの「若いって言われても、その頭に『年の割には』ってつくのがね」と愚痴のひとつも零すのだがそれもまたご愛嬌。
パソコンの横に投げ出された携帯電話の待受画面で悪戯っぽく笑っている実の娘とのツーショットは到底姉妹としか思えないぐらいだ。
879: 2012/09/17(月) 14:05:18.81 ID:sl+ifS88o
そんな御坂美鈴が今何をしているのか、といえばお中元の文面作りだったりする。
彼女の夫の御坂旅掛は世界中を旅している。
否、放浪している。
総合コンサルタントとして「世界に足りないものを示す」などと言って各国各地で今何をしているのかは妻である美鈴ですらもよく分かっていない。
ただまぁ、恐らくは彼は今でも彼にしかできない仕事をしていてそして誰かに必要とされているのだろう。
その対象が自分でないことが些かトサカに来るが、いい大人として妻として腹に収めている。
そして、彼の仕事では非常に多くの誰かと交流を深めていくのだが、日本には季節ごとに親しい間柄の人間同士が贈り物をするという風習があったりもする。
旅掛の仕事は世界各地であって必ずしも日本内部だけではない。
それでも彼はこういう事柄を軽視したりはしない。
一方的な行為であろうとも、挨拶は重要だと考えている。
コンサルタントとしては当然の発想だ。
ただ、その仕事をこなすのが当人ではなく妻である美鈴であるというところに美鈴当人は思うところがないわけでもなくて。
大部分は業者に発注するだけなのだが、そのことだけでも実際問題として重労働である。
880: 2012/09/17(月) 14:05:54.32 ID:sl+ifS88o
旅掛の「世界」は広い。
送料だって馬鹿にならない。
数だって洒落にならない。
言語だってひとつなわけがない。
一件一件それぞれに付き合いの深さや趣味嗜好を反映させなければならない苦労だってある。
実際問題としてこれまでの総額を表示すれば家が何件か建つのではないだろうか、というぐらいだ。
もっともそれ以上に稼いでいるからできることであって、ある意味そのための投資なのだから仕方がないのだろうけれども。
御坂家は神奈川県の高級住宅地に立っている。
計算高い女ならばこういう男を引っ掛けて有閑マダムになりたいと思わせる瀟洒な一軒家だが、その実、なってみればそれ相応の苦労もある。
滅多に帰ってこない夫。
学園都市という巨大な実験場でヒロインをやっている可愛い娘とも離れ離れ。
誰もいない家にでも埃は積もるし雑草も伸びる。
それでも主婦業をキチンとこなしながらこの年齢で大学にも通っている美鈴は一個の女性として十分に尊敬されるべき努力を重ねていた。
「だからってねー。こちとらそれなりにストレス溜まってるのよねー」
ぱちぱちぱち。
携帯を開いてメールに適当に文章をでっち上げて送信。
宛先は夫で内容は「これから浮気してくるからね。可愛い奥さんを寂しくさせている罰だよん」という可愛げのあるもの。
趣味のいい応接セット、そのソファーに頭からダイブしながらどれくらいで返信が返ってくるかな、と悪戯顔でニンマリと笑った。
お茶でも飲むか、とガラス戸の棚に収められているちょっと高級なティーカップセットに手を伸ばした瞬間、携帯が鳴った。
881: 2012/09/17(月) 14:06:43.40 ID:sl+ifS88o
「あらま、随分と早いこと」
わざと無視をする。
昔にはやった詩的なメロディを奏で続ける携帯電話をそのままに、味と香りを損なわないようミルクも砂糖も入れない紅茶を点てて香りのいい湯気で鼻腔を擽ること十分。
その間、一度も切ろうとしないことに感心しながら漸く美鈴は携帯電話を手にとった。
「はろはろー。可愛い奥さんの美鈴ちゃんですよー」
電話の向こうでどんな顔をしているのだろう、と夫のことを考えて自然と口元が緩む。
若干の怒りを滲ませながらも、それでも優しげに世界の何処かにいる夫が話しかけてきた。
「あのなぁ。こういう冗談はやめろよな。本気で焦るんだから」
長身で整った顔立ち。
知性的で精力的で女を魅了してやまない完成された大人の男。
そんな夫を苛立たせている自分に美鈴は少しばかり酔いしれて機嫌を良くした。
天板がガラスで出来ている背の低いテーブルに品なく足を乗せて、そのシルエットが上品なラインを描いていることに満足しながら夫をさらに嗜める。
「だってねぇ。アナタは自由に世界を飛び回っているし、どこで誰と仲良くしてるかわからないんだもの。
千件近いお中元名簿弄ってたらだんだん腹が立ってきちゃって。
こういう作業のおしつけって嫌なのよね。だから、嫌がらせ」
882: 2012/09/17(月) 14:07:15.01 ID:sl+ifS88o
ガラスに映る身体の線は子供を産んだものとは思えない。
肌のハリだって十分に若々しい。
それでいながら大人としての経験を積んで成熟して肌理細やかなシルクのように滑らかな肢体を持て余している現実だってある。
まぁ、このことに関してはなんの努力もしていないのに自分以上に綺麗な肌をしている年上の女性を知っているのだから鼻が伸びることはないのだけれども。
そして、普段からことさら高いヒールを履いて短いスカートを纏って「自分は女だ!」と殊更に叫ぶような格好だってしていないのだ。
なのになんで放っておくの?、という心だってある。
ぶっちゃけ、性欲が解放されていない。
三十代の女盛り。愛する人に抱かれて思いっきり乱れたいと願って何が悪いのだ。
言外にそれを感じ取ったのか、旅掛の声が殊更に小さくなって哀願を誘うような響きになった。
883: 2012/09/17(月) 14:07:40.84 ID:sl+ifS88o
「……悪かった、悪かったよ。今からでも帰る。すぐに戻るよ。今度はできるだけ長く日本に居られるようにする。
君を一人にさせて悪かった。だから冗談だとしても浮気とかそんなことは言わないでくれ。君がその気になればいくらでも男はついてくるんだから」
電話の向こうで人の気配がする。
きっと何かしらの商談をしていたのだろう。
それを放って置かせて、十分も無視しておいて自分を責めない。
尚且つこんな話をしている。
向こう側で日本語が通じていなくともなんとなく理解はされているだろう。
旅掛も恥ずかしい思いをしているに違いあるまい。
美鈴は段々と夫を責める気分ではなくなってきた。
「わかった、言わないわよ。あ、でも今晩は出かけて明日まで帰ってこないわよ?」
「美鈴!?」
「浮気じゃないわよ。詩菜さんとお食事会の約束があるの。一緒に飲もうって。夫の悪口をツマミにね」
えへへ、と少しだけ子供っぽく舌を出すように笑う。
口の中に飴玉を入れられて、それを吐き出せと言われているようで、もっともっと揶揄いたくなってしまったのだ。
娘の美琴がカエルのキャラクターに固執する幼児性を切り離せないように、母の美鈴も悪戯っぽい幼児性を持ち続けている。
凛としたキャラクターも演じられる大人ではあるけれども、好きな夫の前でその仮面を纏っている必要もない。
884: 2012/09/17(月) 14:08:15.35 ID:sl+ifS88o
そこのところが娘とはちょっと違う。
885: 2012/09/17(月) 14:08:48.43 ID:sl+ifS88o
「そうか、詩菜さんだけだよな?」
「上条さんのこと不安に思ってるわけ? 夫の悪口を言い合うって言ったじゃない。居ないわよ、もう」
ほんと、可愛いなぁ。
バリバリに働いて世界を駆け回っている大人の男が自分の一言でこんなに動揺してくれている。
美鈴はそれが嬉しくてたまらない。
可愛い男の子は色々と知っているけれども、実際美鈴が一番可愛いと思うのはダンディズム漂う自分の夫だったりする。
昔は素直になれなかったけれども、一度素直になってしまえばこんなにも愛おしく思えてくる。
886: 2012/09/17(月) 14:09:14.43 ID:sl+ifS88o
きっと、同じ事を娘も味合うのだろう。
887: 2012/09/17(月) 14:09:40.54 ID:sl+ifS88o
「ま、そういうことだから。今日は楽しんでくるからさ、貴方も急がなくていいわよ?
美琴ちゃんに『新しいパパ』を紹介しなくても済むぐらいには誠意見せてくれれば、ね」
通話機の向こうで新たに騒ぎ始める旅掛を突き放すように電話を切って、電源をも落とす。
これだけ言っておけば近日中には帰ってくるだろう。
実際、「世界に足りないものを示す」のならばまず妻たる自分にそれを行うべきなのだ。
ウキウキする、と同時に今晩のお食事会での話のネタができたと美鈴は笑う。
それは少々下品でありながらも心の底から楽しそうで、パソコンに向かっていたときのような焦燥感はかけらほども存在しなかった。
888: 2012/09/17(月) 14:12:18.13 ID:sl+ifS88o
以上です
暑中見舞いは時期がずれたけれどもまだまだ暑いのは変わらず
んでもってそろそろ新刊の表紙が出る頃かなぁ
暑中見舞いは時期がずれたけれどもまだまだ暑いのは変わらず
んでもってそろそろ新刊の表紙が出る頃かなぁ
コメント (0)
まだコメントはありません。